あるアーティストの作品をかなりの数コレクションされているという
若き起業家の方のところに、同行させていただく機会を得た。
すでに社会的には、相当な成功を収められている、ひとかどの人物。
そのご自宅には、くだんのアーティストの、山のようなすばらしい作品が待っていた。
まさに、宝の山。。
珍しいものも含む、回顧的に集められた貴重なそのコレクションを、彼は、この先、一般の人が見られるように、ビューイングルームをつくって、公開したいのだという。
はじめは、どうしてそこまで短期間に、多くの作品を集めたいと思ったのか、その真意が、はっきりとは、ストレートに見えてこなかった。
けれど、ぽつりぽつりと、作品を見ながら語ってくださった言葉に、心底、胸をうたれてしまった。
2001年に行われた個展が、最初の出会いだったという。
たまたま作家も会場にいて、ファンにフランクにサインをしてくれるきさくさが印象的で。
作品を見たら、すごく気になって、自分でもほしくなったのだ、と。
「常設室のほうにあったひよこの絵。かわいいけど、人をバカにしてる感じがいいでしょ?」
そうこうするうちに、口コミからご縁がつながり、作品と出会い、実際にアーティストの絵を手に入れることができた。
不思議なめぐりあわせが続いていった。
事業が軌道に乗る前夜、大きすぎるリスクを負って、不安を感じながらも、ひたすらつきすすんでいた頃のこと。
そんななかで、一番気に入っている、ナイフを持った女の子の絵を見ていると、「励まされたし、元気になった。がんばろうって」。
心から作品と響きあっている様子が伝わってきた。
てらいなく、素直に自分の気持ちを言葉にできる姿が、印象的だった。
その後、一気に成功への階段をかけのぼった彼は、
自分が集めた絵が、「幸運を運んでくれる、縁起物だった」、と、さらりと振り返る。
だから、「恩返しのつもり」で、自分が大変だった時にうけとったものを、今度はそれを必要としている人にも、うけとってほしいのだ、と。
饒舌じゃないだけに、その言葉のひとつひとつに重みがあった。
アートは、とくにそれが実力あるアーティストの作品である場合、
よほどのことがないかぎり、お金以上に多くの価値を生む。
もしも事業が失敗したら、家族に残せる財産となるように、そういう気持ちも少なからずあったという。
ある種の保険として。でも、本当にその大事な保険を使ってしまわないように、心底自分を鼓舞する、励みとして。
アートが人の人生において、精神的にも、そして文字通り現実的にも救ってくれる、癒し以上に強い支えになるということは、じつは、自分も、小さいながら経験していることだった。それがあるから、いまでも、この先も、アートへの敬意が絶対にそこなわれることがない。
だから、思いがけない形で、これまでつながりのなかった人が感じていた、同じような気持ちに触れることができて、しかも、若くして自分の集めたアートを外に開いていこうとする気概ある人の存在を知って、本当に感銘を受けた。
そして、彼の話を思い返すたびに、なぜかじーーん、と、泣けてきてしょうがない、です。
いい話でしょう?